教育研究の理念

教育研究の理念 ●一問一答● ~新しい大学院像とは~

問1 なぜ、新しい大学院大学の設立を目指すのか。設立の背景や、‘思い’をご説明ください。

 背景となっていますのは、「産業の世界や、行政・NPOなどの世界から、修士や博士の学位を持つ本格的な学術人、それも、文化と経済を車の両輪のように理解する公共政策の専門家を育てたい」からです。
 本学の発起人は、1990年代に文化経済学会の創設を推進し、また、企業メセナ協議会で、各地の文化資源を活かしたまちづくり活動の中で、知り合った、池上惇 京大名誉教授、植木浩 元文化庁長官、福原義春 資生堂名誉会長、の三名です。
 私どもは、荒廃しつつある、各地の実態を知るにつけて、つぎのことを知りました。
それは、日本社会が、海外には、例を見ない、優れた職人技や、手仕事の伝統を持ち、伝統を今に生かす力量を持つ人々を、企業や地域、学校、芸術文化、芸能など、あらゆる領域で育ててきたこと。
 これが、日本文化の発展や、海外での高い評価、さらには、経済の世界では、日本の国際競争力の基礎となってきたことです。
 しかし、これらの人々や、後継者を育成する仕組みが、大不況や大災害の苦しみの中で、厳しい状況に直面しています。
 そして、そのような事態を招いたのは、われわれ、文化経済学を研究し、政策に生かそうとしてきた人間にも、大きな責任があると感じています。
 それは、各地の仕事や、生活の現場で、厳しい現実に直面しておられる方々が、文化経済学や文化経営学、文化政策学などの、新しい学術を必要とされているのに、私たちが、十分な支援をできずにいたことです。
 新しい大学院をつくり、現場で、働き、生活しながら、私たちと対話しつつ、通信制で、学位の取れる、日本初の大学院を創りたい。
そこでは、各位の職人能力や、各地の人々のもつ文化資本も、研究の対象となります。職人能力の研究が広がり、文化資本を活かした経済発展を研究されること。
 さらには、文化経済学、文化経営学、文化政策学を研究教育する力量を身につけてゆかれることです。
 また、このような研究者が、書斎の中に閉じこもることなく、各地に固有の文化資源を活かすコーディネーターとして、各地の創造的な文化産業づくりに参加され、企画され、実践されることを切望しております。
 さらに、各位が、各地に根ざして次世代を育てる‘営み’を追求され、例えば、塾を開かれて、各地の職人後継者を育成する、新たな教育活動を展開されることを期待しております。

問2 では、学校法人を設立するために、どのような段取りをお考えですか。

 新しい大学院をつくるには、二つのことが必要です。
 ひとつは、学校法人をつくる前に、新しい大学院の教育研究を担いうる、教師をつくる仕事を実行する。そのために、「市民大学院」を創りました。
 もう一つは、学校法人の設立に必要な寄付金を積み上げることです。
 前者の目的のために、私どもは、市民大学院をつくり、3年から5年をかけて、修士や博士相当の実力を持ち、文化経済、文化経営、文化政策に通じた人材の育成に取り組み、着々と、人材を育てています。
 寄付金は、新しい大学院設立の趣旨にご賛同くださる個人を中心として、5千円から、1万円を最低限度の単位にして、多くの方々から、ご支援を頂き、既に、1億円を集めました。今後も、地道な努力を続けます。個人中心の寄付活動は時間がかかりますが、お一人、お一人にご理解とご支援を頂いてこその大学院づくりですので、焦らずに、腰を据えて取り組みます。申請活動は、関係者とのコミュニケーションを密にし、ご理解を得ながら地道に進めます。

問3 市民大学院のしくみを教えてください。

 市民大学院は、文化経済学、文化経営学、文化政策などの基幹科目を中心とし、2年で、修士相当、3-5年で博士相当の論文(学術博士、文化経済学博士、文化経営学博士、文化政策学博士など)を完成させるために、講義と論文指導を行うシステムです。通学制と通信制の併用です。基幹科目は、水曜日に講義します(昼・文化経済学=中谷武雄、夜・文化経営学、文化政策学=池上惇)。
 講義の担当者は、大学院の指導を担当した経験があるベテランを中心とし、これに、社会人研究者や、若手の学術研究者が付きます。
 入学は、世話人代表者が面接し、授業料は無料。個別の研究指導をうけて、論文を公表するには、国際文化政策研究教育学会(会長 池上惇)にご入会を頂いています(入会金1万円、年会費、1万円)。通信制の研究指導は、日常的に、ネットを用いてプライヴァシーを尊重しながらすすめ、月に一度は、対面で(京都か、現地で)指導を受けます。各地では、研究会を開き、講義内容との連携を図りつつ、地域での交流の場づくりを重視します。

問4 市民大学院の建学の精神を説明してください。

 教師と社会人学生が学び合い、育ちあう大学院でありたい。
 それは、一方では、現場と学校を往復する「現場から学べるベテラン教師」「現場の実践を尊重する大学院教育経験者」を、育てることです。
 そして、他方では、教師が、講義や論文指導の中で、社会人学生の現場での仕事や生活の実践から学び、「生命や生活の現場に生きる学術」を創造する力量を身につけることです。
 市民大学院とは、市民の生活や仕事の現場を、市民自身が研究し、学術論文に仕上げるとともに、教師が現場から学ぶ姿勢を持って、生命や生活の実践に貢献できる創造的な学術を開発する、世界初の大学院大学です。
 学校法人の認可はとっていませんが、京都大学で長年研究教育に携わってきた名誉教授、文化資源を活かした経営を実践してきた経営者、文化政策を担ってきた行政人などが、中心となり、ボランティアで講師をします。講師は原則として出版活動と印税収入で生活を支えます。印税が入るまでは、独自に仕事の開拓(研究所づくり、専門的な学校づくりなど)、年金も教師の重要な生活資金です。これらの活動を国際文化政策研究教育学会として応援します。
 研究教育の目的は、市民に対して、‘生活や仕事の中で、自分が身につけた文化、職人能力、文化資本の可能性に自信を持っていただき、他人や、多様な世界との文化交流の中で、創造性をもち、イノベーションをおこす力量’を身につけていただくことです。これを、私達は創造的自立と呼んでおります。創造的自立を支援する大学院づくりです。
 そして、この中から、生命や生活の充実に資する総合的な学術。これを発見し、を創造する教師が育ちます。これを、創造的開発と呼んでいます。

問5 京都に教学の中心を置かれているようですが、今後の展開については、いかがですか。

 京都は、空海が綜芸種智院を拓いた地でもあり、石田梅岩が都鄙問答を書いた舞台でもあります。
 これらの学術の精神は、一つは、生活技術など、高い学芸を身につけて民衆を救済するというヒューマニズムの伝統であります。そして、他方では、商業などの生業を究めて、職人能力を地域の共通の資産とし、その先に、高度な学術を身につけ、同時に、布施や寄付の活動を通じて社会的信頼を確立してきました。
 これらは、経済の公共化、生命と生活の活動から、芸術や文化への展開をも観望しております。
 このような学術は、ながらく、日本の研究教育の本来の姿であり、優れた伝統でありながら、忘れられていた感があります。
 私たちは、この精神を、通信制を生かして、日本各地の多様な固有文化を交流し、人的なネットワークを構築する中で、各地ごとの、個性的な取り組みを通じて実現してゆきます。
 最も重視していますのは、各地の同好の人々による、地元に固有の研究テーマをもつ研究会、その成果の出版活動です。
 出版活動によって、教師、社会人学生、市民との広範囲な交流、対話の場が至る所にできてゆくこと。
 教師の数が飛躍的に増えて、一人一人が、出版の印税を得て、地域で、塾を開き、蔵書を公開して図書館を開くこと。
 これらが、「学術文化による‘静かな賑わい’」を各地に創りだし、「文化による‘まちづくり村おこし’」の核となること。これを心から願っております。    (完)